技あり!!

春秋 (日経)

春秋(4/7)
 ルネサンスの巨匠ミケランジェロの作品にブルータスの胸像がある。「ブルータス、お前もか」で知られるカエサルを暗殺した男。フィレンツェの美術館にある像の意志の強そうな精悍(せいかん)な面構えに、暗殺者への作者の深い思い入れを見た。

▼巨匠は彼を英雄として刻んだ。そこには自身の政治的体験が投影する。都市国家フィレンツェの支配者だったメディチ家を追放する市民の革命が起きた際、彼もかつてのパトロンに弓を引きメディチ軍に対抗する防衛司令官を務めた。独裁者を倒し古代ローマの共和制を守ろうとした男に感情移入して不思議はない。

▼だが、巨匠の見方がすべてではない。領土が急拡大した当時のローマの統治は元老院の手に余るようになっていて、カエサルこそ帝政移行という時代の要請を先取りした先駆者であった。ブルータスは歴史の潮流を読み損ねた。そんな見方もある。2000年あまり前の暗殺事件でも、後世の評価はなかなか収束しない。

▼同じ歴史的事実も見る者の目に応じて様々な像を結ぶ。歴史認識とはそういうものではないか。日本の教科書検定をめぐって近隣から「憂慮」や「憤慨」が伝えられた。逆説的に言えば、誤った歴史認識があるとすれば普遍的な唯一の正しい歴史認識があり得るという考え自体ではないか。そこに気づいてほしい。

ですね。
正しいとか、間違っているとか、善とか悪とか、そんな単純な二元的な価値観では判断できないモノが歴史には多すぎる。歴史は数学じゃない。